++馬鹿++

2004年2月28日 小説
「…貴方はそこで何をしてらっしゃるんですか」

「よぅ陸遜」
通路から見える開けた中庭の大きな大樹の上に、背を預けて転がっている見慣れた人がいた。
「暇だし昼寝してたんだよ。それよりお前は何してんの」
彼は、頭だけこちらに向けて、木漏れ日の光に目を細める。
暇って…。今日も朝から軍議があったんですよ。
相変わらず貴方の姿を見つけることは出来ませんでしたけど。
そればかりに気を取られてもいられない、現状に。
逆らうことなく、戦略を立てる。
「また、戦になるんだってなあ」
「…、そう、ですね」

戦になるのを止めたいとは思っていない。
全ては呉の為に、国の為に最善を尽くすのみだ。

それが軍師として与えられている自分の役目。

如何にして、より多くの敵を殺せるか、それを計略として考える。
降伏か、開戦か。
より強大な敵国に立ち向かう為にはどちらかを選ぶべき。

…結果、開戦。

「甘寧殿は…」
「ん?」
少しだけ俯いて、問う。
当の本人は、転がっていた体勢から枝に座り直してこちらを向いた。
「開戦について、どう思われますか?」
罪もない民に対しては、殺意もない、悪意もない。
ただ共通する思いは、守りたいものがあるから、と言うことだけ。
その為に、人を殺め、国をも殺めてしまう。
「…そーだなぁ。俺、お前みたいに頭良くないからさ。戦略とか考えんの苦手だし。
でもま、殿がそう決断されたんならそれでいんじゃね?」

あっさりとした彼の答えには、裏表が無い。隠す言葉などどこにも無い。
正直で、竹を割ったような性格。

その性格が、羨ましいですね。私は貴方のようにはなれませんから。
いくら、望んでいても。
でも何も伝えなくても、心のどこかで望んでいた答えを弾き出してくれる。
…そういうところ、依存してますね、私は。
「……私達は、呉の国を守ることだけ考えていれば良いんですよね。
すみません、余計なこと言いました」
軽く頭を下げて立ち止まっていた足を再び進ませた。

腕には書簡、これからやるべき仕事は山の様。
こんな会話もしている余裕はないのだけれど。
それでも言葉一つで、張り詰めた考えが解けました。
ありがとう、ございました。
「謝んなよ、訳分かんねーから」
そう言いながら腕を伸ばして、伸びをする。
「…じゃあ、ありがとうございました。これで満足でしょうか?」
「うわっ、なにお前!その刺々しい礼!もっと人に礼をする時にはさー、こう柔らかく…」
「貴方に礼の指導をされるとは思ってもいませんでしたね、失礼します」

あぁ、まただ。
肝心な言葉だけは素直に言えず仕舞。
…こういう自分の性格、嫌いです。
踵を返してそのまま部屋へと急ぐ。
直後、背後に何らかの気配を感じて肩越しに振り向いた。
「…何故、貴方がついて来るんですか?」
「陽も傾きかけて寒みーから、今度は陸遜の部屋で寝る」

は!?

「なに言ってるんですか貴方は!ここにある大量の書簡が見えませんか?
これから部屋で片付けるつもりなんですけどね。貴方はその横で寝台で寝るということですか?」
「気にすんなよ。だってお前の寝台、寝やすいんだぜ?この荷物部屋まで運んでやるからさ」
半ば呆然としていた陸遜の腕からその荷を取り上げて、軽そうに肩に乗せて先を歩く。
は、と我に返った陸遜はその後を急いで追いかけた。
「ちょ、いいですよそんな。これくらい運べますから」
「遠慮すんなって」
「遠慮とかそういう問題ではなくて…」
もはや聞く耳持たずで先を歩くのに、がっくりと肩を落とした。

最 悪 だ。
この仕事は明日までに仕上げなければならないのに。
この人が横の寝台で鼾を掻いて呑気に寝ているのが、
頭の7割ほどを支配する。
言い換えれば、全く集中出来ないというわけで。
普段のペースの半分ほどまでに能率が下がる。
とは言え、閉め出すような真似は出来ないのだから。
自分の心とはいえ、複雑だ。
だから最後に折れるのは自分。
能率は落ちるとは言え、「軍師」ではなく「陸遜」として落ち着くのは確かだから。

「…仕事が終わるまで、ですからね」

「そんくらい、俺にだって分かってるって」
ぎゃははは、と楽しそうに笑いながら歩く彼に、半分降参です。
おそらく何も考えてない彼に、二重、三重と考えてしまう自分。
考え方も、性格も、正反対だから、落ち着く。
だから一緒に居て居心地が良い。
けど、その所為もあって意見は食い違うことが多い。
タイミングも。

「子明(呂蒙)にさー、酒貰ったんだけどよー、お前呑む?」
「…呑みませんよ!仕事が山のようにあるって言ったじゃないですか。馬鹿ですか貴方は!」
あぁ馬鹿だ。
この人は本当に自分の現在の考えをすぐ口に出す。
…本当に、馬鹿ですね、貴方は。
別に害したわけではなくて、苦笑というか、そういう気持ちの上での馬鹿呼ばわり。
何だかもう、貴方が馬鹿で安心します。
逆に、貴方がそんなだから、言葉の裏に隠された感情を知られずに済むんですから。

だから、ひとまずは今は馬鹿で居てください。

今は、どうか浅ましい感情に、気づかないで下さいね。

彼は、あーそうだったっけなあーとか取りとめも無い台詞を口にして、また笑い出す。

あぁ、本当に、貴方が馬鹿で良かったです。

…無双SSタイトル「馬鹿」、お送りしました。
楽しかったなー…Vv
それでこの続きはこの前の無双SSSくらいに移ることもあります。
「貴方が軍議に出ないので仕事が私に回ってきて困るんですよ」
みたいな話に。
でも、この後仕事が済んだ陸遜は、甘寧サンを蹴落とすかは微妙。
素直じゃない陸遜が前面に表されますので…こういうコなんですよ。
それとも、仕事済みの書簡を上からドサッと落とすとか。
「起きて下さい。仕事終わったので、そういう約束でしたよね?(笑顔」
…あぁ楽しすぎる(笑)
まぁ気が向けば続きを書くかもです。
なんていうか、日記じゃないですね。テーマは「連載」に配属されるんでしょうかね。
言っておきますが、まだ「友達」です(苦笑)

コメント