「そりゃお前らの言い分も分かるよ?俺が留守にしてたから気を遣ったんだってことも。だからってさぁ」
世に珍しい光景があるとすれば、忍の集団正座ほど話の種になるものはないだろう。
今の所は戦もない平和な世であれば。
「示し合わせたならまだしも、全員が全員同じこと考えてそれぞれ行っちゃうってどうなのって話」
忍の庵で長である佐助が不機嫌を纏わせて上座に君臨し、説教を始めてどれほど時間が経ったか。
その前にはずらりと正座をさせられた真田忍、計9名。
弁明をしようとしても、口を開く前に佐助の獲物を射るように鋭い眼光で睨まれれば、口を紡ぐしかない。
心なしか佐助の背後にあるはずのない仁王像が見える気がする。
「くれたもの全部食っちゃう旦那も旦那だけど、あの人のそういうとこ知ってるだろ?それだけ連携して動けるなら誰が行くかくらい決めてけよな。なんで一番基本的なこと抜けちゃうかな」
佐助の手より床に落とされたのは、団子やら饅頭やらの甘味が包まれていたであろう葉の固まりだ。
丁度正座させられている忍の人数分の量がそこに束ねられていた。
佐助が上田を留守にしていたのはほんの一日だった。
幸村には留守にすると伝えてあり、夜には戻ると言えば「息災にな」とあの笑顔に見送られて発った。
そしてつつがなく役目を果たし、報告をする為に幸村の部屋に向かえば、朝と同じく笑ってくれた。
嬉しそうに「おかえり」とはにかんでくれたもんだから、大して疲れちゃいないが疲れなんか一気に吹っ飛んだ。
この笑顔があるから自分はこの人の為に何だって出来る。
思わず抱きしめたい衝動に駆られるも、まずはお役目だと自分に言い聞かせて報告を済ませた。
労いの言葉を受けて、ようやく一息ついて、夜も更けたので旦那の布団を敷こうと腰を上げた時だ。
視界の端に屑籠に押し込まれた甘味の葉が映り込んだのは。
一日分?とんでもない、朝夕合わせても到底一日分には多すぎる。まさかこれを全部食べたのか。
緩んだ顔が途端に険しくなり、眉間に皺を寄せてそれらを取り出して、旦那これ何?とあえて笑顔で問えば、才蔵達がくれたのだ!とこれまた笑顔で返された。
へーそう。それで旦那は全部食べちゃったんだ?
うむ、大層美味かった!
主従の和やかな空気はここでぷつりと切れた。
その時、主の部屋からは恐怖に駆られた幸村の絶叫が聞こえ、佐助の説教が延々と続いたという。
後日、幸村はその時の様子を恐ろしげに、佐助が般若に見えたとぼそりと語った。
明くる日、幸村への説教を終えた佐助が真田忍の強制召集をかけたのは言うまでもない。
そして現在に至る。
何のことはない。佐助が留守にしていた為、幸村の恒例の甘味を佐助に代わって用意したということだ。
それだけなら何の問題もない。
しかしそれぞれがてんでに買ってきて、別々の場所で幸村に差し出していなければだ。
主を思い、気遣って用意してくれたのは有難いが、まさか全員同じことを考えていたとは考えていなかったらしい。
此処に呼び出されて正座させられるまでその事実を知らなかったという。
(なんでお前らまで団子買ってきてんのよ)
(幸村様喜んで下さったし)
(だって絶対長がいないと忘れてるだろうなぁって。…全員買ってたとはね)
互いが互いに忍独特の空気を切る会話で文句を言い合うそれに、佐助の容赦ない雷が落ちた。
「言い訳なんざ聞きたくないの。忍は結果が全て。ハイ、何か言うことは?」
「…スイマセンデシタ」
「…以後気をつけます」
「…ごめん、長」
やれやれと深く溜息をついた佐助は、その場に腰を降ろした。
「反省したならいいよ。旦那にも言い聞かせたし、食っちまったものは仕方ない。
旦那はあれで喜んでた。お前らも旦那の為を思ってやったことだもんな。
今回は重なっちゃったけど、お前らが旦那を思う気持ちは本物だから、方向性さえ違えなければそれでいい」
「ですが…幸村様の御健康に支障が出ては」
「ああそれは大丈夫。ちゃんと釘刺しといたから。一日何本って一緒に決めたからね。
それに旦那も悪いってことでとりあえず明日の夕まで団子抜き」
「…幸様に申し訳ないです」
しゅんと落ち込む年若い忍の頭をぽんと叩く。
「何言ってんの、旦那はたらふく食えて満足してんだから。昨日俺があれだけ言ったのに今日にはケロッとして鍛錬してたし…ほんと、少しは分かってくれてんのかね」
口ではそう言いながらも、佐助が幸村を見る目はいつだって優しい。
そして幸村に忠誠を誓い、佐助を慕う真田忍もこの上司2人が笑い合って、其処に居てくれればそれでいいと思っているのだから重症だ。
慣れない正座で足が痺れようと、それを小助に突っつかれようと、その先に変わり者の主に心を与えられた忍の願いがあるなら、いくらでも身を張れる。
あの主が笑っていられるように、その主の隣にいつも素直じゃない長がいられるように。
ただ、それだけを願う。
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…終わり方ってどうすればいいんですか!誰か教えてください(笑)
なんてーかまた予定外のモノを…書いてしまった…てか最近進むの早いな…。
書きたかったのは冒頭の、佐助により正座させられる忍9名(笑)
いや…長は怒らせると怖いんだよって話。
怒るのとキレるのはまた違いますからねぇ。佐助は幸には当然甘いけど、部下にも結局はやさしいんだよって感じがします。
小助はちびこいのと幸似で佐助から可愛がられてると思う。
で、多分一番長スキな筧辺りは何となく面白くないから後で小助に八つ当たりする。大人げない!(笑)
もちょっと短文とか書いてみたい。酔っ払い主従+面倒見る忍達とか…書きたい、ってか読みたい!誰か書いて下さい(笑)
オカシイなー佐幸だけより、忍’ズ出した方が書きやすい…。
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