真実を嘘に 嘘を真実と告げる どちらが表で裏なのか分からぬように

だって俺様嘘なんてつかないもん!



「だからさあ、忍に大事な奴なんていらないんだよ」

とくとくとく、と杯に注がれる酒を見ている。並々と嵩を増した酒は杯の表面をゆらりゆらりと泳ぐ。
少しでも傾ければこぼしてしまうとこちらが気にしてしまうが、心配されているとも知らず当の本人は一気にぐいとあおる。
酒が喉を通過するのを目に留めるよりも、酒のもたらす効果かいつもより饒舌な佐助の口から聞く「言葉」に興味を奪われた。
普段からよく喋る忍だが、なかなか本音は話さない。のらりくらりとかわされて、いつのまにか話題をすりかえられている。
だから今この時の、どこか焦点の合っていないぼんやりとした目をする佐助が、ぽつりぽつりと話し始めた言葉の次を急かさぬように、幸村は黙って聞いていた。

「そんな奴作ったら…邪魔。俺の優先順位は昔からずっと変わってやしないのに」

ことんと杯を畳に置き、顔を上げた佐助と目が合った。
酒の熱が色を帯びたその目はどうにも居心地の悪さを感じさせる。
此処にいるのはまぎれもなく佐助であるのに、奥底の言葉が聞けるなど佐助らしくない。
違和感などは今更問題ではないが、この落ち着かなくさせる気分は何なのか。
体温が上がり普段より熱い佐助の手が頬に触れる。
熱を帯びて蕩ける切れ長の瞳の中に自分が映り込んでいる。

「…俺の大事なひとは、あんただけでいいんだ」
「さ、」
「だから」

肩を引かれて髪を撫でられる。慈しむように一筋ずつ流して触れるその手はいつだって優しかった。
ああ、佐助、だ。
ふ、と息をつきその手の心地良さに目を細める。
きっとこれ以上落ち着ける場所など他にはない。
そのまま頭を預けると耳に触れた唇から直接言葉を吹き込まれた。

”ね、俺にしときなよ”

忍は表裏一体。何が嘘で真実かなど問題にはしない。
ただ目の前のこの男が話すならば、それが嘘だろうが何だろうが構わなかった。
それが巡り巡って結局は自分を思うてくれているが故のものであると知っているから。
誤魔化していると分かる明らかな嘘も、見抜けもしない嘘、忍として告げる正確な真実、こうして聞いた言葉。
それを話すのが佐助ならば、疑うことなく全部ひっくるめて信じると決めている。
嘘をつかないという嘘吐きの言葉を、ありのまま聞くだけだ。

大事な奴はいらぬと今しがた言ったばかりではないか。
佐助らしくない言葉の矛盾は酒の所為だとしても、自分がこれほどまでに思われていたと実感させられて顔が熱くなる。
無性に恥ずかしくなって、赤くなっているであろう顔を見られぬよう佐助の胸に頭を押しつけた。
耳元で言われた言葉のおかげで心臓は早鐘を打つし、酔っぱらいは向こうなのに自分ばかり振り回されている気がしてならない。
それを分かってか分からずか何もなかったようにまた髪に指を通されて触れてくる。
言葉がなくても自然に読み取り気持ちを汲んでくれる。
お前がそうして俺を甘やかすから、いつだって俺はお前に甘えてしまうというのに。


言われなくても、言わなくても、答えなんてわかりきっているんだ。

忍の嘘は誠意の裏返し。だってそうだろう?裏の裏は表、と相場が決まっているのだから。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

2人で酒盛り主従でした。珍しく潰れたのは佐助。
幸もそこまで強くないけど、今日は何故かペースが早かった佐助のが酔っ払い化。
忍は嘘をつき騙す本業ですが、適当な嘘ばかりつくいいかげんな性質ってわけじゃなくて、佐助に限れば意味のある嘘しかつかないわけです。
特に幸村に対しての嘘は本当に幸の為を思ってのことだから、自分の感情はまだしも自らの利目的や幸の不利になるような嘘は何があろうとつかない。
幸も分かってて騙され続けてくれるその気持ちに申し訳無さもありますが、それ以上に凄く有り難くてますます大事になっていく。
佐助が嘘を真実と貫く嘘はさすがに見抜けなくても、明らかな嘘っていうのは幸にバレるの前提でついてるんで半分楽しんでる所もあったりします。
こういうのが佐助のからかい部分に影響してるのかもしれないですね。
今この時の佐助が話す言葉だけは決して嘘ではないから、直球ストレートで幸にクリーンヒット。


前に書いたことがあったと思うんですが、主従関係は主以外に大切な人を作れば辛いんじゃないかって話。
どうしても優先順位は主第一になるから、です。あれを思い出してちょっと組み立ててみました。
相変わらず短文書けません。超短文とか書きたいのになー。3行くらいの(短すぎだろ)
それではまた!



コメント