”朝:マンションにて”
2009年6月26日 BASARA SS携帯のアラームが朝を告げる。
毎日決まった時間に規則正しく鳴り続け、眠りから意識を浮上させる。
布団から億劫そうにのろのろと手を伸ばし、枕元に転がっていた携帯のアラームを解除した。
「ん…」
それだけの些細な動作だが無意識の反応を返してしまうのは、今も隣でぐっすりと眠っている同居人だ。
起きる気配はなさそうだが、眉間に皺を寄せてむずがる。
かわいいなぁとすっかり覚醒した頭で思いながら、あやすようによしよしと撫でてやる。
まだ彼が起きるには早いので、起こさないように静かにベッドから抜け出した。
遮光カーテンを開けば朝の光が遠慮なく差し込んでくる。
ベッドに光が当たらないよう片方だけ開いて寝室を出た。
まずは洗濯機を回し、その間に洗面所で身支度を整える。
制服をいつも通り適度に崩して身に着け、髪をヘアバンドで一気に上げてしまう。
朝の忙しい時間の中では一つ一つに時間を掛けられないので、満足する出来に仕上がるとすぐに次にやるべきことへ移る。
キッチンの椅子に掛けてあるエプロンをつけてキュッと後ろ手に紐を縛る。
ここからは男子高校生ではなく、母のような役割になる。
鍋に湯を沸かし、冷蔵庫から食材を取り出していく。昨夜の内にタイマーで仕込んでおいた炊飯器も頃合だ。
手際良くまな板の上を包丁が音を立てていく。
朝食と同時にお弁当も作る上、相手がそれはもう美味しそうに沢山食べてくれるので作り甲斐もある。
まぁ量も種類もそれなりにあるが、あっという間に平らげてしまう。
今日も美味かったぞ!と笑って言われると、そっかぁと嬉しくなるのだから、明日も、夕食も、より一層手を掛けて作りたくなるのだ。
ひとしきり作り終えて後は弁当箱に詰めるだけというところで、洗濯機が完了を知らせる。
火やら水やらを止めて洗面所に向かえば、静かになった洗濯機から洗われた洗濯物を籠に移してベランダに運ぶ。
空っぽになった籠を抱えて部屋に戻ると、テレビからは目覚まし時計のアイツが時刻を告げてくる。
もうそんな時間かと時の流れを実感すると籠を置いて今度は寝室に戻った。
布団を抱え込んですぅすぅと寝息を立てているのはずっと見ていても飽きることなどないが、起こさずにいるという選択肢はない。
休みの日であればこのままゆっくり寝かせてやれるものの、平日の今日はそうもいかない。
気持ちよく眠っているのを起こすのはかわいそうだが、心を鬼にして思いっきりカーテンを開けた。
「幸、朝だよ」
「……ぅ」
「ほーら起きなさいって、幸。ゆーき。幸村ぁー?」
肩を揺すると覚醒を嫌がって布団の奥へと引っ込んでしまうが、そうはさせないとばかりに布団をひっぺがえす。
抱きしめる布団がなくなったのと部屋が明るくなったことでようやく意識を浮上させる気になったようだ。
閉じられていた目が眠そうに開かれるが、まだ半覚醒状態なのですぐにでも眠りに落ちてしまいそうだ。
「…さすけ?」
「おはよー幸。ご飯出来てるよ。着替えて顔洗っといで」
「…うん」
もぞもぞとベッドから這い出し、ぷるぷると頭を振る。睡魔を払う為だろうが、どうにも愛嬌を誘って可愛らしい、と思うだけで言わない。
そのまま洗面所に確かな足取りで向かったのを見送って、キッチンに戻り、朝食を準備する。
弁当を作った時に一緒に茶碗についでおかないのはいつでも温かいものを食べてもらいたいからだ。
テーブルに2人分の朝食を並べた頃、制服に着替えた幸村が椅子に座る。佐助がその向かいに座ると同時に手を合わせた。
「「いただきます!」」
それからは時間の許す限り朝の時間をのんびり楽しんだ。
テレビの占いで何位だとか夕方には雨が降りそうだとか、他愛のない話だがそれが心地良かった。
この時間を得る為ならば多少朝が早くても構わない。
佐助も人間であるのでたまに寝坊して幸村共々教室に滑り込んだりもするが、それすらも幸村となら悪くない。
片付けを終えてそろそろ家を出なければならない時間が迫る。
先に荷物を持って玄関で待ち、まだ奥にいる幸村に声をかける。
「幸ー忘れ物しないでねー?」
「無論!今日はお館様の授業があるからな、昨日何度も確認したぞ」
「ほんっと大将のこと好きだねぇ」
ばたばたと駆けてくる幸村の後には尻尾髪が揺れている。
幸村のことに関しては逐一世話を焼いている佐助なので、髪も当然手入れをかかしたことはない。
今は幸村が朝支度をした時に適当に結んだままになっているが、それも学校に着けば佐助が梳いて結び直している。
鍵を閉めて外に置きっぱなしの自転車を引っ張り出す。
前の籠に2人分の鞄を乗せると、前に幸村が、後の荷台に佐助が乗っかる。
だが弁当だけは佐助がしっかりと抱えているのだが、その理由は知れている。
「よし佐助、乗ったか!」
「乗ってますよー、今日も頑張ってね幸村~」
「行くぞ、掴まっておれよ!」
「あ、言っとくけど安全運て―――だってばぁぁぁぁ!!!」
幸村が漕ぐと毎度ながらエンジンついてんじゃないのかと思うほど豪快にかっ飛ばしてくれる。
一応注意はするのだが、聞き入れてくれたことがない。
さっすがサッカー部。体力も元気も有り余っている。あ、俺様も同じ部だけど。
鞄の1つや2つ落ちた所でまた拾えばいいが、弁当は落ちたら悲惨なことになる。
その為、とりあえず弁当は守ろうと佐助が持つことにしている。
漕ぐのを代わればいいのだが、どうにも幸村が譲らない。
何から何まで佐助がやってくれるから、俺も佐助の為に何かやりたい!ということらしいが。
ただ佐助は幸村に限定で世話を焼くのが好きなだけだというのに。
物凄い勢いで過ぎ去る景色を何となく眺めながら、弁当を抱えていない片手で幸村にしがみついてみた。
むおっ!とか変な声が聞こえたが気にせず頭を背にくっつける。
「ゆーき」
「なんだ佐す、ふぉっ!?」
ごそごそと意図せず腹の辺りをまさぐる手に驚いてスピードが多少収まった。
「こらっ佐助、やめぬか!くすぐったいではないか」
「くすぐったい?え~幸が掴まってろって言うから掴まってるだけだよー」
「ならば手を動かすのをやめろ、というのに、さすけ!」
「やーだ。ちょっ幸村っわざと揺らすのやめて!弁当落ちる!俺様の愛情弁当が落ーちーるー!」
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今回は初の学園設定の佐幸でお届けしました。
戦国だと色々と制約があるけど、学園だとやりたい放題できるのが楽しいです。
主従じゃないとか幸村が立場気にせず甘えられるとか佐助が色々遠慮しなくて済むとか(笑)
「幸村」って名前で呼べるのが一番大きいかな。
「旦那」だと戦国とごっちゃになっちゃいそうだなぁと思いつつ、基本は「幸村」とか「幸」。
現代だとオリジナルで出来ますけど、今回は学園の方でやってみました。
続き書きたくなったら書こうと思うんで、繋げやすいようにタイトルもそれっぽく。
ちなみに2人は高校生ですけど同居してます。朝、ピンポーンって起こしに行くのもいいんだけどさ…!
寝起きのとこから書きたかったから同居設定作りました。
戦国の幸なら目覚めは良くて鍛錬三昧ですが、学園の幸は朝弱いといいなぁ…という希望から。
多分一番楽しかったのは私です。。
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